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Time
14:00
Stage:特変教室
こんな風に謙一の既にボロボロな計画に容赦無く鉄球が打ち込まれようとしていたその時。

【???】
――ちょっと待ったあぁああああああああああああああ!!!!
前方側の戸が勢いよく開かれた。

【譜已】
え……!?

【奏】
んお?

【美甘】
…………
起きてた面子はその怒号の方向へと一斉に顔を向ける。

【男子】
おいおいおいおい! 来てみればいきなり聞こえたのは権力濫用!

【男子】
まだ新学期始まったばっかだろうが!! 早過ぎんだろ!!

【女子】
というか内容!! ちゃっち過ぎるでしょ!!

【沙綾】
いやいや、そんなことないわよ。クローズに割く時間の大きさは貴方たちも知ってるでしょ

【女子】
知ってるけども! だからこそ巫山戯んなって話でしょうが!

【謙一】
おお!! 俺と同じ感想の人たちがこんなにも!!!

【男子】
何感激してんだテメエは! てかテメエなんだろ特変のリーダーは!

【謙一】
え
残念ながら謙一の心を理解してくれる味方は居なかった。
あの始業式から既に、井澤謙一という男の位置づけは完成されているのだった。

【男子】
ホントに知らねえ顔だ……噂通り、外部の奴が親玉らしい

【謙一】
えと、ごめん、噂って何? 俺そういうの疎いからできれば教えてほしいんだけど

【男子】
うるせえ極悪人!!!

【謙一】
ホントに俺どんな存在って思われてるの!? どんな噂!!?

【沙綾】
あらーホントだわー、軽く調べてみたけど、「真理学園を我が物にしようと銘乃学園長と手を組んだハゲ野郎」ですって

【謙一】
いつの間にか俺絶体絶命の位置づけになってるじゃねえか!!?
てか最後のただの悪口じゃん! ハゲてねえ!!

【沙綾】
あとは……「B時代にもその手つきの悪さと脱毛成分で校長を操ってた」とかも

【謙一】
手つきの悪さって何だよ! あとハゲてねえっつってんだろうがあぁあああ!!!
普通に俺校長と仲良かったし! 将棋で泣かせてるってだけだし!
くっそう最悪だ! どうすんだよ、こんなあらぬ評価亜弥に知られたら悲しい顔しちゃうかも……

【謙一】
あ……俺、もうダメかも……

【譜已】
い、井澤先輩……!? こ、腰が、というか全身から力抜けて、どうしたんですか……!?

【沙綾】
よく崩れ落ちるって表現見かけるけど、モノホン見たのは初めてねえ

【乃乃】
罰ゲームでもこれくらいのインパクトを与えられればいいんですけどね
謙一以外平常運転を崩さない特変面子。
それを見て煮えたぎる思いを、押しかけてきた少年少女が爆発させる。

【男子】
井澤謙一!!

【謙一】
何だよ……喧嘩とか、止めてくれよ……俺今そんなのに付き合える精神状況じゃないの分かってくれよ……

【男子】
うるせえ特変破りだ!!

【美甘】
……!

【乃乃】
おや

【謙一】
…………
予定までもが見事に崩れ落ちて、最早自宅感覚で寝転び始めた謙一にそっと沙綾が紙を渡す。

【譜已】
せ、先輩、服汚れちゃう……

【謙一】
えっと……特変破りは、確か……
「特変に対し勝負を挑むこと」で……
……………………。

【謙一】
イヤです。
圧倒的な下から目線で一言放った。

【女子】
はぁ!?

【謙一】
ほら、だって特変破りってことはまず「合意」が必要だろ?

【謙一】
「実行申請用紙」が提出された、なんてことも俺らは一切聞いてないわけだし……

【謙一】
つまり、何も決まってない状況で来られてもそれは特変破りじゃないってことだ。そして俺らは見ての通り面倒臭いことはやらない主義だからな……

【謙一】
おまけに今の俺はとてもそんな何かをやるモチベが燃えない心境なんだ……せめて後日にしてくれ……

【譜已】
先輩、ここ教室ですよ……

【謙一】
譜已ちゃーん、もうゴロゴロしちゃおうぜー……この床案外ヒンヤリしてて気持ちいーぜー……

【乃乃】
何かがブレイクして誰よりも怠慢な姿になってしまった模様

【沙綾】
井澤くん、ゴロゴロするのは構わないけど銘乃ちゃんのスカートの中見れちゃう状態なのは気をつけてね

【譜已】
ひゃ――!?

【謙一】
勿論気をつけてるさ。ゴロゴロするにも節度を守らないとな

【美甘】
(教室でローリングしてる時点で節度も何もあったもんじゃないだろ)

【奏】
まぁ譜已ちゃん基本スパッツでガードしてるから大丈夫かと

【奏】
あ、でも、進級してからはリスキーに行かせるって翠さん云ってたっけ

【奏】
……――譜已ちゃん、今、履いてないの!?!?

【謙一】
何だと!!?!?
男子はうつ伏せで身体を固定し目を見開いた。

【譜已】
あ、う、え、えっと……えっと……

【譜已】
……はい……

【特変】
「「「!?!?!?!?!?」」」

【奏】
譜已ちゃんが……

【沙綾】
学園長の娘が……

【謙一】
ふ……譜已ちゃん、が――

【乃乃】
譜已、さんが……

【奏&沙綾】
「「(ノースパッツ――!!)」」

【謙一&乃乃】
「「」(ノーパンツ――!?)」」
解釈が主に二つに分かれていた。

【男子】
オイコラ無視すんじゃねえよ!! 特変破りだろうがよ!!!

【謙一】
んなことより大事なことがあるんだよ、聞いてなかったのかテメエ!!?
さっきまでの怠慢が焼き尽くされる程の勢いで謙一は起き上がった。

【謙一】
特変破りなんてやってる暇ねえんだよ帰れ!! 取り込み中だ!!

【女子】
な――

【奏】
うんうん、私も譜已ちゃんはやっぱりガードが薄い方が可愛いと思ってたんだー!

【沙綾】
いざ襲った時にそんなのあったら残念な思いになるものねー

【譜已】
お、襲……?

【謙一】
んなワケねえだろ、友達だろ、もっと護ってやれよ!?

【奏】
え? いやぁそりゃ、当然護りますけども。譜已ちゃんのスカートの中とかSRですし

【乃乃】
いいですね……譜已さん、見直しました👍

【譜已】
え……? あ、ありがとうございます……えへへ……

【謙一】
核弾頭の言葉に喜んじゃダメだ譜已ちゃん! 今すぐ、といっても更衣室でかつての姿に戻るんだ!

【沙綾】
過保護ねぇ。若いんだからそれくらいのアグレッシブは普通でしょうに

【沙綾】
というか、コレ(=スパッツ)くらいなら教室でも履けると思うけど

【謙一】
俺の目の前でコレ(=パンチュ)を!? それはアグレッシブ過ぎんだろうが!?
何だ、男子が思ってるほど女子は~、的なやつなのか!? 俺が子ども過ぎるのか……!?

【沙綾】
ていうか男子2人だけなんだから更衣室行くのは男子でいいんじゃないの?

【謙一】
女子更衣室しかねえだろうが! やるとしたら男子は男子トイレだな!

【凪】
……そろそろ話が戻れない領域にまで脱線しそう
巻き込まれないよう距離を取って本を読んでいた凪は、いつまでも扉の前で無視され続けている者たちを眺めていた。

【生徒】
…………………… …………………… ……………………
来るとしたら、このタイミングだろうなと直感した。

【凪】
譜已、こちらに来なさい

【譜已】
え? は、はい……?

【謙一】
おお、烏丸! そうだ、取りあえず本当に譜已ちゃんが履いてないのかどうかを俺の死角から確認してもらおう!

【奏】
譜已ちゃん履いてないって告白してたのに?

【謙一】
信じられないんだ……

【奏】
ホント何でそんなにシリアスな顔してんのパイセン……

【沙綾】
男子ってこういう話題には弱いからねぇ

【奏】
なるほど、つまり井澤パイセンはむっつりスケベってことか!

【乃乃】
よく喋りますけどね

【奏】
お喋りスケベ!

【沙綾】
何か最低な響きね

【謙一】
譜已ちゃんを護る為なら敢えてその汚名も甘んじて受け止めようじゃないか

【奏】
おお……開き直る男らしさ! カッコいいかも、2ミリぐらい見直しましたよパイセン!

【沙綾】
彼女の心配って動機付けでカモフラージュしてる醜さ。3グラムくらい見直したわ井澤くん

【謙一】
何とでも云え。ということで俺の功名の犠牲を無駄にしない為にも頼むぜ烏丸!

【凪】
半分以上貴方の云っていることが分からないけれど、貴方たちは扉の方を向きなさいよ

【謙一】
ん?
ようやく謙一らは扉の方を向いた。

【生徒】
…………。
彼らは「武器」を持っていた。

【謙一】
あれ? まだ居たの……?
てか何で“機能”なんて発動してるの?

【乃乃】
ふむ……どうやら私たちが譜已さんを囲んでいた間に「武装」を済ませたみたいです

【謙一】
いやだから特変破りはしないって云ってるのに

【男子】
うるせえ……どうでもいいんだよあの学園長のルールとかよ……

【女子】
要はアンタらさえ潰しちゃえば何でもいいんでしょってことぉおおお!!!
一人の女子が声を挙げ、つま先で床を蹴り、扉のレールという一線を越え、教室内へと身を入れた途端――

【生徒】
うおぉおおおおおおおおおお!!!!!
武装した者たちが一斉に、教室へと――!!

【男子】
ぐわぁっ!?

【女子】
ぎゃあっ!?
だが、この第一波、先陣を切り教室に入った4名が、一斉に地に伏したことで、後方十数名の勇者たちは足を止めた。
感覚にして、まるで1秒くらいで起こった出来事。
その圧倒的な非日常性が、各々の身体にある報せの波を奔らせる。

【謙一】
お、おぉ……?
マジで特変破り強行かよ! いきなりフリクションかよ! とかツッコもうか悩んでいたその時、右隣から8発くらいだったか、銃声が響いた。
つっても銃声にしては鼓膜がそんなにビビらなかった。
恐らく音を抑える仕様なのだろう。

【謙一】
二邑牙?

【奏】
パイセンがカッコ良かったので、じゃあ今度は私の番かと

【謙一】
いや、特変破りじゃないからコレ

【奏】
でも武器と明らかな攻撃意思を持って教室入ってきたよ?

【奏】
つまり、正当防衛☆

【謙一】
うーん……まぁ、有効といえば有効な主張ではあるが

【謙一】
実際に攻撃をしたのは二邑牙が最初なんだよなぁ

【奏】
…………………………

【奏】
その辺の処理はパイセンにお任せします!!!

【謙一】
結局俺も働くじゃねえか!!

【男子】
くそっ……怯むなぁ!!!

【男子】
まだこっちの方が数は――

【奏】
数なんて――

【男子】
ぎぃあっ……!?

【女子】
ぎゃふっ!!

【女子】
だっ――

【奏】
――減らせばいいだけの話じゃないかな!
撃つ。
1発。2発。
銃弾を脚に撃ち込む。それで大半の者は動けなくなる。
二邑牙奏はそれを徹底した。勢いだけで攻め込んできた勇者たちを一人一人動けなくする作業。
一度行えば1人減り。
二度行えば2人減り。
数をざっくり見積もり、20人とした場合、十度行えばその半分は動けなくなる。
例外を考えず、まずそれを徹底した。
20人ならば、二十それを行うことを何よりも優先した。
数が減る。
どんどん減る。
1人減る。2人減る。半分減る。
20人減る。
奏の意識下の見積もりは、偶然にも正確であった。
すなわち、二十の繰り返しの結果、敵は全滅したのだった。

【謙一】
はやっ――!?

【奏】
パイセーン、後処理思いつきましたー?

【謙一】
いや、まだ10秒も経ってないんだけど……
床に2つの拳銃が落ちていた。
いや、捨てられたといった方が適切。

【謙一】
拳銃を表示するのがお前の“機能”なのか

【奏】
まぁ、当たらずとも遠からずとも

【奏】
時間制みたいなもん。幹接続なんだなー銃撃系の

【謙一】
ああ、なるほ……
「幹接続型」は聞いたことあったが、初めて見たなぁ……つまり、体力が続く限り無限に銃を表示し続けるタイプか。
弾倉を交換するよりも、次の銃を表示した方が効率良いのだろう。結果、二邑牙はこれほどのスピード殲滅を実現してみせた。しかも驚くべきは……

【謙一】
一発も外してねえのか……あれ見たところだったろ

【奏】
まぁ、距離近かったですし
それはあんまり理由になってない。距離が近くても第一に狙ったのは脚だ。
精密なコントロール射撃にも関わらず、まるで短機関銃のような連続射撃。それを殆ど手動でやってしまった。
始業式に一度ソレを見たわけだが、この抜群の戦闘力、とんでもない後輩だった。

【女子】
ッ――くっそ……!!

【乃乃】
……! 奏さん!
後輩クラスメイトの人並み外れたシューティングスキルに感心していたところに、1人の倒れていた女子が脚の激痛をガン無視して、満足に起き上がることもせずそれよりも突進を択んだ。
特に誰かに狙いを定めたというわけではなかったが、その突進の先――

【奏】
ッ!! しぶとっ

【謙一】
譜已ちゃん!!

【譜已】
え――
偶然その方向にいた、譜已に大剣が襲いかかる……!

【凪】
チッ――よりによって譜已にとか、もっと考えなさいよ――!!
すぐそこにいた凪、譜已の視界を阻むように大きく庇う。譜已に危険は何も無いのだと主張するように、包み込むように……。
それはつまり、凪の背中が無防備になるということ――!!

【奏】
烏丸パイセ――
――パキン。
そして、緊張の瞬間は通り抜ける。
……人肉を切るにしてもちょっと硬質過ぎる音が響きながら。

【女子】
――ぇ――

【美甘】
………
銘乃譜已でもなく烏丸凪でもなく、特に話に加わってすらなかったクラスメイト堀田美甘が真正面を防御するように両腕をクロスさせていた。
だから勇敢にも足掻き通した女子の“機能”によって発現していた大剣は美甘の両腕をまず叩き切ることになったのだが、結果破壊されたのは腕ではなく剣の方だった。

【女子】
ぶごっ――!? ……~……
剣が壊れた一方、切られた腕は見た目特に変わった様子はなく、直後に無許可の挑戦者を廊下まで殴り飛ばすくらいには元気に機能していた。
それを特に不思議に思うことなく、ちょっとした危機を解消した面々は緊張を解除していく。

【奏】
マジ助かった~堀田パイセン~~!!

【美甘】
ぷいっ

【沙綾】
そして安定のロンリーウルフ。にしても相変わらずタフな筋肉よねー今の写メっておけばよかった

【謙一】
……えっ? 今の素の筋肉だけで防御したの!? ボディビルダーかよ!

【奏】
流石にマナ使ってるって。でも堀田パイセンの“機能”……多分筋力をパワーアップさせる感じのだけど、相変わらず強化量がおかしい……今殴られたパイセン、臓器大丈夫かな……

【凪】
あろうことか譜已を狙ったのだから、どんな怪我を負おうと当然のことでしょう

【美甘】
…………(何やってんだウチは……)
騒ぎ関係無く爆睡してるヤンキー同様にパワーファイターってことなのか……見た目は平均的な女の子に見えるのになぁ、怖いなぁ俺も下手したらいつか殴られるかもしんないんだよなぁ。
まあ何にせよ、二邑牙と堀田のお陰で突然発生したフリクションは無事終わったってことでいいのかな――

【乃乃】
……あ、謙一さん謙一さん

【謙一】
ん?
後処理から軽く現実逃避して後輩を眺めてた謙一に、乃乃が嬉しそうに駆け寄る。
実に嬉しそうである。最良の正解を見つけた、みたいな爽快ハッピーエンドな顔である。
謙一は既にイヤな予感がしていた。

【謙一】
えっと……何?

【乃乃】
思いつきました

【謙一】
何を?

【乃乃】
後処理ですよ(ニヤリ)
乃乃は謙一の手に持っていた紙を指差した。
……。
…………。
……………………。
SKIP

【生徒】
「「「ぎゃあぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」」
には二つのクラス以外総ての教室が空き状態となっている。
人口爆発が起きうる真理学園が余裕を考えて建築した為に、今年度も教室は有り余っていた。
ということで授業で使うかもしれない、という以外は価値に埃が積もっている状態の空き教室。
その一つが、たった今炎上していた。

【生徒】
「「「ぎゃあぁああああああああああああああああああああああああ」」」

【乃乃】
奏さん、鍵使って扉にロックかけてください

【奏】
あーい
というか炎上していたのは人間だった。
人間――先の奇襲に失敗した少年少女たちは炎上した状態で空き教室にぶち込まれた。

【沙綾】
取りあえず生徒手帳は抜いておいたから、まぁ大丈夫でしょ

【謙一】
どこも大丈夫じゃないよ? お前らも大丈夫?
そこには当然といえば当然、水なんて存在しない。机があって、黒板があって、窓があって、ドアがあるくらいである。
そのドアはたった今外からされた。
彼らは脚を負傷していた。ぶっちゃけ立つのに超苦労する状態。
匍匐移動で何とかドアに辿り着いたとしても、「開」のセンサーが手に届かなかった。

【乃乃】
手が届いてしまった対策を講じてもよいのですが、今回は敢えて手を抜きましょう

【乃乃】
奇襲型は周知されていなかったのですから、「危険を知らなかった」という云い訳は有効です

【奏】
佐伯パイセン思いのほか優しいー! ちょっと見直したかもー!

【謙一】
ねえバカなの? ほんとお前ら頭大丈夫??

【美甘】
……………………
誰とも関わる気のない無口なクラスメイトも、少年少女の結末は気になっていた。
ということで見に来てみた結果、見なきゃよかったとすっきり爽快に後悔した。
も、燃えてる……!
燃えてる!! 人が燃えてる!!!

【生徒】
「「「ぎゃあぁああああああああああああああああああああああああ」」」

【沙綾】
そういえば最近、キャンプファイヤーとか見てないわねぇ

【奏】
真理学園ではあんまやらないですよね。てか、どこでそんなイベント組み込めばいいのやら

【沙綾】
普通にキャンプでしょ

【乃乃】
キャンプ以外でのファイアーは……ボーンファイアーとか云いませんでしたっけ

【沙綾】
私そこまでは知らない。興味も無いしね

【奏】
じゃあ何でパイセン話題に出したの

【沙綾】
呟いただけだもん。会話にするつもり無かったのよ、後輩

【乃乃】
しかしその気になればいくらでもできそうですよね、ファイアー

【乃乃】
この街、木材に困りませんから

【奏】
いやいやいや、そんな手軽にやろうとしたら翠さんに発案者暗殺されちゃうって

【沙綾】
だよねー
その手前で日常会話してるぅうううう!!!?
声にもできない発狂光景だった。
思わず美甘はこの場唯一の常識的な理性をお持ちの男へ視線をやった。

【謙一】
……………………
人間場合によっては視線だけで会話はできるものである。
謙一は首を横に振り、手に持っていたホカホカの紙を美甘に差し出した。

【美甘】
……?
不思議がりながら、美甘は受け取った紙を見た。
(上述略)
⑤特変破り手続き
特変破りは、基本的に実行側と特変側の双方の合意と、学園への手続きが原則必要である。 後者については学園の教員に申請するなどして受け取った「特変破り実行申請用紙」に必要事項を記入し学園に提出する。申請用紙に記入すべき項目は、参加者数、全参加者氏名、希望日時、希望場所、双方合意のルールである。参加者数に上限は設けない。日時や場所については希望の通りとなるよう学園が働きかける。
(以下追加項目)ちなみに特変破りは上記の手続きを介さずとも、つまり合意を作らずとも可能である。但しその「奇襲」に失敗した場合、特変が自由に決定する「罰ゲーム」を参加者全員が受ける。
(下述略)

【美甘】
!?!?!?
な……
何か増えてるうぅうううううううううううううう!!!!

【謙一】
これで特変破りは日常化する……

【謙一】
俺たちに売られた喧嘩は全部特変破りと認識されて、しかも「奇襲型」として相手することになる。

【謙一】
打ち負かされた挑戦者の末路が……

【生徒】
「「「ぎゃあぁああああああああああああああああああああああああ」」」(←炎上)

【謙一】
コレだ……

【美甘】
……………………

【乃乃】
どうでしょう美甘さん、これで私、心置きなく罰ゲームを準備できるんです

【乃乃】
ああ……ますます私の行いが法的保障を持ちました……背徳感の質が変わってしまうのは残念ですが……

【乃乃】
コレはコレで、私の闇が浄化されるような感覚で、気持ちいいです……

【謙一】
浄化っていうか増殖してるなー

【美甘】
……………………
美甘は何かしらの心を閉じた。
因みに謙一は既に全ての心を閉じた。