
START

【謙一】
ただ多数人間が同じ場所に居るのを組織とは呼ばない

【謙一】
規律だ

【謙一】
俺たちは組織なのだから、規律を持たなきゃいけない

【沙綾】
うわー随分テンプレな線持ってきたわねー最悪~

【情】
授業になりかけてるのに気付かねえのかハゲ

【謙一】
ハゲてねえ

【凪】
まぁ、それで静かになるなら私は構わないけど

【奏】
買い食いは許してほしいなー……

【譜已】
そんな具体的過ぎるルールなのかな……

【乃乃】
……謙一さん。それでは、私は規律されてしまうのでしょうか

【乃乃】
矢張り……罰ゲームは、迷惑でしたか

【謙一】
いや、まぁそりゃ迷惑以外の何物でもないけど
「自業自得だろうが」などの正論も後ずさりするレベルの、儚げな雰囲気を出してるような気もしなくもない佐伯。 彼女にとって、嫌がらせが一体どれだけの価値を持っているのだろう……。
まぁ、兎も角その心配は残念ながら杞憂なんだけども。

【謙一】
9つだ

【奏】
9つ?

【謙一】
今から、9つ、ルールを定める

【謙一】
俺たちは特変として、今後この9つのルールを守って生活していかなくちゃならないんだ
9つを、指で表す場合。 これは逆に難しいとすら思えるレベルで解説は容易である。 片手で5本、もう片手で4本を伸ばせばいい。
だが、この時井澤謙一の指はそうでなかった。
一本。
たった一本――右手人差し指のみが腹を見せていた。
その意味を、察しの良い面子はすぐ察し、深い息を吐いた。

【情】
ほう……

【沙綾】
なるほど、ねぇ……

【凪】
……よくもまあ、そんな大胆なことを

【乃乃】
…………

【奏&譜已】
「「???」」

【志穂】
つまり――1人、釘1つってことか
一部分かってない面子に、志穂がその意味を明示する。

【志穂】
私らが特変として生活していく為に設けるルールを、1人1つずつ作れ

【譜已】
……え!?

【奏】
それ……いいんですか? この面子で、そんなことしたら……

【奏】
先輩が、欲しかったのは組織の一貫性だよね? でも、これは逆を行くんじゃ……? 皆好き勝手に自分ルール提案してくるに決まってる

【謙一】
別に良いんじゃねえか?
それが、井澤謙一の解答であった。
奏の質問への回答のみにあらず、彼がずっと考えてきたことに対する、取りあえずの結論であった。

【謙一】
特変結成から1ヶ月が経とうとしてる。授業も2週間は経過した

【謙一】
そんな中で分かったのは、やっぱり俺たちに統一は似合わないってことだ。いつぞや遠嶋が云ってたように、斬新な俺たちは、やり方もやっぱ斬新じゃなきゃ合わない

【謙一】
授業に限らず俺たちは何もかも、創っていくしかない。目指すのは全員にとって居場所となるクラス。その為に――お前らが譲れないもの1つ、提示しろ。それが、各々が特変であることを示す証になる

【乃乃】
……いいんですか? 確かに今の状況で取れる、最も効率的な統率であるかもしれません

【乃乃】
しかし無法の状態でさえ薬に伸ばしている謙一さんは、もっと苦しむことになりますよ?

【謙一】
それはもう諦めてるかもな
加えて、いっそルール化してしまった方が精神的な準備もしやすかろう。

【謙一】
それに……俺も我が儘を通せるようになるからな。それで手を打ってやる。どうだお得だろ

【奏】
お得かどうかは先輩の我が儘の質にもよるかもね……たとえば譜已ちゃんにセクハラを働きたいとか、そういうのだったら私はパイセンごと特変を破壊しちゃうよ

【謙一】
お前が俺をどう見てるのかは分かった
基本的に俺は紳士である。
とか思いながら謙一は後輩に拳骨をかます。

【奏】
いたい~~~!!!

【謙一】
ホラ、1人1つ出せ。勿論限度的なものはあろうが、提案だけなら自由だ

【謙一】
まぁ一部面子のはもう予想がついてるんだけど
特に――

【凪】
考えるまでもない。最初から、云っているもの

【凪】
私は平穏を望むと

【謙一】
思ったより大人しくて助かるわ

【凪】
……特変という枠から、私は逃れられない
様々な理由で……私は、いま此処にいなければならない。
そこに私の気持ちが主張する余地はない。
……そもそも私に、気持ちなんてあってないようなものなのだから――

【凪】
私の平穏を、乱さないで
揺るぎない凪の言葉。 特変一つ目のルールが、事実生まれた。

【沙綾】
はぁ~ぁ、ホントに面倒臭いこと持ってくるんだから~

【謙一】
最初は何だって面倒臭いもんだろ? 開墾する感じ

【沙綾】
だから、どうして私がそういう開墾をしなきゃいけないのってことよぉ

【沙綾】
今後はこういうの持ってこないでよね。面倒臭いの私嫌いなんだから。私は、シ・ゴ・ト、したくないの!

【志穂】
……それが、おめーのルールか

【沙綾】
まあそういうこと

【謙一】
マジ怠け者だな遠嶋……衒火はどうだ?

【謙一】
俺のイメージだと、烏丸並みに即行決まってそうなんだけど

【情】
察しろハゲ

【謙一】
ハゲてねえ。それは流石に乱暴すぎるだろ、俺が安易に扱っていいものじゃない

【謙一】
しっかり自分の言葉で表せよ。お前の在り方はお前が示せ

【情】
ふん……
強気を崩さない謙一の言葉に情は鼻息で返す。

【情】
忠告だ。この俺様の機嫌を損ねるんじゃねえ

【情】
……以上だ

【奏】
え!? それだけ!? いや、らしいけど!

【沙綾】
もっと細かく云ってほしいみたいよー

【情】
要は、俺の所属するクラスとして見苦しいことをしてくれるなってことだ

【情】
芥は消すだけだ。俺の覇道を邪魔するな

【奏】
(*^▽^*)ピキピキピキ

【志穂】
管理職、一触即発だぞどーすんだ

【謙一】
取りあえず無視っとくか
セージとローズマリーの葉を詰め込んだ20㍑の袋に顔を突っ込みながら謙一が別の面子に投げかける。

【謙一】
譜已ちゃんとかどうよ?

【譜已】
と、取りあえず、先輩が心配で……先輩が、そんなお薬に埋もれちゃわないように……皆には、喧嘩してほしくないです……

【譜已】
私も、その……いつ“機能”が発動するか、分からないですし……この前の歓迎祭みたいなことにならないように……その意味で、私のことを考慮してくれると、凄く助かると思います

【奏】
むむ……譜已ちゃんらしいお願いが……

【奏】
仕方無い……私も、譜已ちゃんの為に抑えていかないと

【謙一】
そんな譜已ちゃん教な二邑牙は何かないのか?

【謙一】
俺的にはできればコストと疲労を抑えられるようにしたいけど

【奏】
イヤですー。私だって自由にお願いするんですー
ルールって云え。

【奏】
そうですねー……それじゃ……

【奏】
私が、転んでも……その、笑わないでくれますか――?

【謙一】
……は?
何か、意外というか意味不明なものが飛び出してきた。
……………………。
何というか――取りあえず、

【謙一】
お前、羞恥心ってもの持ち合わせてたんだな――
顔面に飛び膝蹴り命中。

【奏】
そーですよーだ! 自分で分かってますよーだ!

【奏】
だから、そういう二邑牙奏も、受け止めてください! 譜已ちゃんみたいに!

【奏】
それなら、私にとっても……居心地良い場所に、なるかもしれない……

【謙一】
二邑牙……(←鼻血)

【奏】
……ま! 譜已ちゃんさえ居れば何処でもいーんだけどね!
二邑牙が明るく笑う。 自由なお願いとやらを云って、最後には笑い飛ばして……
言葉の重みを、理解してるのだろうか。それを問う資格を、今の俺はきっと持たない。
だから次の面子に回す。

【謙一】
佐伯は?

【乃乃】
…………

【謙一】
つっても……お前も考える必要、無いわな

【乃乃】
……良いんですか――? 本当に?
分かれ道。 引き返すことのできる限界地点とも云える。 ここから先、迷うならばこの俺の提案は無意味へと帰す。
やるからには躊躇無く。 そんな決断の時。 ……さっきも云ったように、俺は諦めたのだし、覚悟を決めている。 だったら俺から云えることは、一つである。

【謙一】
言葉にしてみろよ、お前のルールを

【乃乃】
…………
それを受け……
乃乃は、一呼吸置いてから、放った。

【乃乃】
このクラスを製造地とし、同時に被爆地ともします――私、核弾頭の!

【乃乃】
もう、文句も云わせません

【乃乃】
皆さんのお尻は、全て私のものです!!!

【全員】
「「「……………………」」」
全員暗い顔をした。

【乃乃】
大丈夫ですよ、住めば都っていいますから

【奏】
パイセン、何かホントに大丈夫なのかな私たち

【謙一】
諦めろ

【奏】
いや、男子の汚いケツと私ら麗しいお尻の価値同等にしないでほしいんですけど!

【志穂】
んな変わんねえよウ〇コするとこってだけだろ

【譜已】
!?!?!?

【美甘】
!?!?!?

【謙一】
!?!?!?
皆ノーコメントで今のは忘れることにした。

【奏】
そういや!! 秋山パイセンはどうなの!?

【志穂】
ん?

【謙一】
ルールだよ。秋山の譲れないもの
いわば仕掛け人側に附いてくれた秋山は、俺が9つのルール制を提案してくるのを知っていた。
だがお互い、何をルールとして提案するのかは聞いていない。

【志穂】
そーだなぁ、私は……
秋山の、譲れないもの――

【志穂】
私は、放課後に関与してこないならいっかなー
――それは、俺的には意外だった。

【奏】
関与しないって……つまり放課後になったらしっかり解放しろってこと?

【志穂】
そーゆーこと、私はさっさと帰りたい系女子なんだよ

【志穂】
帰らせろ。あとはテキトウに過ごしてる――

【志穂】
――ごがー💤

【謙一】
テキトウ過ぎんだろ
だから寝んなよ!!!

【志穂】
んだよー……そういうおめーは、何の我が儘通すんだハゲ

【志穂】
こんな提案してくるってことは、お前のはとっくに決まってんだろ

【謙一】
ハゲてねえ
まぁその通りではあるんだが。

【奏】
…………

【譜已】
…………

【凪】
…………

【情】
…………

【乃乃】
…………

【沙綾】
…………
自然と視線と文脈が、俺へと――
狙ってやってるのかが分からないな秋山は……結果的にナイスと評価せざるを得ないのだろう。 云い出しっぺの俺が、もっとカオスになるに決まっているこのクラスに、一体何の釘を打とうとするのか。 察しの良い皆、気になっている筈だ。 誰よりも苦労を背負わされる俺がその対価として打とうとしている一発を。

【謙一】
俺は――
なかなか、秋山に感謝だ。 俺は今みたいに、トリを務めたかった。 その釘は――

【謙一】
名前で呼ぶ
誰よりもインパクトの薄い「大事なもの」だから。

【奏】
…………え?

【沙綾】
名前、って……

【乃乃】
……名前?
二邑牙に加えて、いっつも加害者側な遠嶋や佐伯のレア「?」顔が返ってきた。
他の面子も、声には出さずとも呆気に取られているようなリアクション。やっぱり順番は大事だ。俺のは、最後に云わなきゃいけなかった。
いや、正確には最後じゃないんだが……まぁ仕方無かろう。

【情】
テメエこそ正確に言葉で示せハゲ

【謙一】
ハゲてねえ。分かってるわ

【謙一】
俺たちは恐らく、深い附き合いをしていかなきゃいけない。これから2年間だ。まぁその殆どは衝突事故な気もしてるんだが、何にしても、深い附き合いだ。密接だ

【謙一】
各々がルールに示したような、譲れないものを軸に、ぶつかり合う。削り削られる思いもするだろう……それも、深い附き合いだ。それはきっと妥協しちゃいけないものだ。自分も、他者も、愚弄する行為だからだ

【謙一】
俺は、妥協しない為に――呼称から入ることにした
名は体を表す。言葉は対象(オブジェクト)全てを包括し指示する。
まず、そこを大切にしていかなきゃ、管理職として――
アイツの兄貴として生きることは叶わない。

【謙一】
秋山は志穂。堀田は美甘

【謙一】
烏丸は凪。二邑牙は奏。譜已ちゃん……は最初からそう呼んでるけど譜已ちゃん

【謙一】
衒火は情。遠嶋は沙綾。佐伯は乃乃

【謙一】
全員に、コレを強いる。それが俺の定めるルールだ

【凪】
……貴方にとって、その提案は衒火や佐伯のルールと張り合える価値なの?

【凪】
正直、呼び方なんて、勝手に変わっていけばいいことだと思うのだけど

【奏】
私も、そう思った……パイセン安すぎませんソレ?

【譜已】
私に至っては、何も変わらない……

【謙一】
変わらないことはないさ。まずそこから始めるのが、俺なんだ

【情】
…………

【情】
テメエ、とんだバカだなハゲ

【謙一】
ハゲてねえ

【情】
いいだろう。そのルール、受けてやる

【沙綾】
えっ!?!?
外敵に敗北しない為に、抑も譲れないものをこの内敵から護っていく――現状相当に効果的で合理的な手段。それを今更拒否する意思は、1年間の惨状を一応理解してる全員持っていなかった。
しかし井澤謙一の最もインパクトを持たない筈の、インパクトある釘を衒火情が即行で認めたのは色々と衝撃的な事態だった。取りあえず衒火情が全員を下の名前で呼ぶことに同意したのである。

【沙綾】
ま、マッジで!? 衒火くんマジで云ってるの!?

【情】
その釘に価値が無いっていうなら、俺たちにはデメリットも無い筈だろうが

【情】
なら、衝突もねえ。わざわざ拒む理由も、ねえ

【情】
まぁ謙一は全く以て無価値とは思ってねえみたいだがな

【奏】
うわっ……! この人が他人をファスネで呼んでる、何か内蔵痒くなってきた!

【奏】
え、えっと……私ら後輩組は、先輩たちをどう呼び直せばいいんすかソレ?

【謙一】
呼び捨てでいいだろ。上下関係とかこのクラスで一番要らないと思う

【謙一】
だよな情?

【情】
上とも下とも見ねえよ。芥か否か、それだけだ謙一

【沙綾】
うっわあムズムズする、鳥肌! 鳥肌ッッ、あーもう何で他人の名前呼び合いでこんな思いしてるのよ私!

【乃乃】
私は、無意識ながら名字読みしてませんでしたね……つまりいつも通りなワケですが……

【乃乃】
いいんですか? 私ばかりが得をしているとしか思えないんです、謙一さん

【謙一】
それならそれでいいじゃねえか

【謙一】
少なくとも乃乃が気にしなきゃいけないことじゃない。ただただ俺が大切にしたいことなんだから

【乃乃】
……………………

【乃乃】
謙一さん、今度創作料理のアイアンメイデン風ニラまんじゅう、試食させてあげますね。せめてものお礼です

【謙一】
何の気が回ったのかは知らないけどソレはちょっと遠慮したいんだ

【志穂】
罰ゲーム回避してんじゃん

【謙一】
回避できるものは回避していいとする。それでもほぼ逃げられないのが核弾頭だしな……
乃乃がルールとしたのは、「核弾頭」であること自体を止めないこと。
実に区別が難しいラインではあるが、まぁ落とし処としてこれ以上良いトコは無い気がする。

【謙一】
んで、後輩組の話だったな。取りあえず俺を呼び捨ててみろよ。あと凪とか

【凪】
まぁ、別に構わないけれど。ゆでだこに名前を呼ばれたぐらいじゃ細波も起きないわ

【奏】
ぶん殴りたいけど譜已ちゃんのルールが絶妙に効いてるなぁ~……

【奏】
これからもッッッよろしくお願いしますねッッッ凪パイセンッッッ!!!

【凪】
……これからも私の平穏を乱さぬよう、より意識してくれると助かるわね
二人は熱く硬く苦しい握手を交わした。

【謙一】
譜已ちゃん的にあの二人の青くなりかけてる握手はセーフなわけ?

【譜已】
で、できればもっと仲良くしてほしいですけど……いつものこと、なので……

【譜已】
えっと……その……け……け、けん……――

【譜已】
謙一、先輩――

【謙一】
うん。ありがとう譜已ちゃん

【譜已】
~~~~……
先輩も要らないんだけどなぁ。 慣れが必要そうだった。これからも真っ先に俺が附き合ってあげないと。
それにしても。
……やっべえ可愛い!!

【奏】
あっ! 謙一パイセンが譜已ちゃんをナンパしてるーー!!

【凪】
なんですって……?

【謙一】
え?
次の瞬間、謙一の顔面に烏丸凪のラグビータックルが炸裂した。

【謙一】
な……なぜ……(←鼻血リターン)

【凪】
譜已と仲良くなりたくて、とかの理由でそのルールにしたのが判明したら、悪いけれどすぐさま変更を強制するわ謙一

【譜已】
あの……だから元から、私名前で呼ばれてたんだけど……

【謙一】
断じてそんな軽い理由じゃないから別にいいんだけどさ……てか凪、お前割と戦闘イケる系――?
マジで痛かったんだけど今の肘。 流石に何百人を一瞬で掃除する奏と張り合ってるとなれば、それなりに強そうだな……

【沙綾】
……これはもう、慣れていくしかないのよねー鳥肌……

【謙一】
ま、そうだな……さっき乃乃が云ってたように、呼称すること自体は軽い行為だ

【謙一】
すぐ慣れるさ、沙綾

【沙綾】
……かーくん以外の男性に名前で呼ばれるのは初めて……いや、5人目かな

【謙一】
割と居るじゃねえか

【沙綾】
でも、いわば身内以外の人だとホント初めて感覚。名前呼ぶだけでキャーキャーする性格じゃないけどさ

【沙綾】
ちょ~っとだけ、見直したわ……リーダー。新参者って認識はやめてあげる

【謙一】
名前呼びしないんかい

【沙綾】
だって貴方のこと謙一くんって呼んでるとこかーくんに見られたら、あらぬ誤解招きそうだもの

【沙綾】
特に音々が一緒にいるタイミングでそんなこと起きたら……あーイヤイヤ

【謙一】
未だにお前の云う学園常識に俺は附いていけてない

【奏】
それも慣れるから大丈夫ですって

【志穂】
んにしても、おめーに志穂って云われんの何か腹立つなー

【謙一】
別に俺だけじゃないぞ呼ばれるの

【志穂】
おめーに志穂って云われんの、何か腹立つなー!

【謙一】
二度云う、しかも強調して云うか

【謙一】
悪いが逃げ場はねーからな、志穂。逃げようものなら放課後お前をストーキングしてやる

【志穂】
ハゲがうつる

【謙一】
ハゲてねえ

【志穂】
まっ……いーぜ、ハゲ。あ、間違えた、謙一。お前のルール、秋山志穂も受け容れてやる

【謙一】
ハゲてねえ。サンキュー、これで一歩……確実な一歩を行けた

【奏】
そんな感覚、無いけどなー……でもこのクラスが組まれて1年ちょっとで、何かすっごい色々変わる予感がしてきてるよ

【乃乃】
謙一さんが、入ってきたからですね

【謙一】
変えさせてもらうさ。間違いなくこれから先も、特変という俺たちはあっちこっちと脱線するだろう。再三云ってるが、俺はお前ら全員を統率するような器じゃない。そもそも俺が脱線隊長だ

【志穂】
おめーは頼れる隊長を志せよ

【謙一】
だから引き返す、なんて器用な歩み方もできないだろう。絶望的なほどに迷子にもなるかもな……

【謙一】
だけど、そうなったとしてもどうなったとしても――俺たちは、在り続ける

【謙一】
在り続けなきゃいけないんだ
それが、少なくとも俺や志穂の確定事項。
お前らのことはまっだまだ全然分かってないし脅威と表現して間違いないが……それでも離さず、共に行かなきゃならない。

【謙一】
そもそもの学園長殿の意図はいまいち謎なままだが――それとは関係なしに

【謙一】
俺たちは特変。それだけは覚えておけ。運命共同体――どんな結末でも、皆で道連れだ

【奏】
怖い云い方しないで

【謙一】
だからお前ら各々、少しでいいから認識しておいてくれってこと。俺たちは特変という単位で、どんな道を行くのかってことをな
その為の土台……俺たちが特変であるという事実を、全員が落とし込めるようにする。それがきっと管理職たる俺のまずやらなきゃいけないこと。だから今回ルールをそれぞれに定めさせた。
……だが。
まだ、この作業は完遂していないのは明らかだ――